東京地方裁判所八王子支部 昭和33年(ワ)186号 判決 1965年5月12日
原告 浜中金作 外一名
被告 海老沢シズ 外六名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告ら訴訟代理人らは、「被告海老沢シズは原告浜中金作に対し金一四七万〇、二一二円およびこれに対する昭和三九年九月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。その余の被告ら六名はそれぞれ同原告に対し各金四九万〇、〇七〇円およびこれに対する昭和三九年九月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告海老沢シズは原告浜中四郎助に対し金四三万三、五八四円およびこれに対する昭和三九年九月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。その余の被告ら六名はそれぞれ同原告に対し各金一四万四、五二八円およびこれに対する昭和三九年九月二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、別紙昭和三九年一一月四日付準備書面写し記載のとおり陳述し、「損害額は、本件鑑定の結果により坪当り三万五、一三〇円と主張する。原告らのそれぞれの買受け坪数による積算額からそれぞれの未払残代金額を控除した額につき、亡海老沢国太郎の妻である被告海老沢シズに対してはその相続分に応じ三分の一を、子であるその余の被告ら六名に対しては、それぞれ相続分に応じ九分の一を請求する。なお原告らの本件農地売買ないし宅地転用につき東京都知事の許可がないことは認めるが、知事の許可を停止条件とする売買における買主たる原告らの停止条件付権利が侵害されたものである。」と述べ、
被告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告ら主張事実は全部否認する。仮りに原告主張の農地売買があるとしても、東京都知事の許可がなく、従つて土地所有権の移転なく、原告ら主張の損害を生ずる理由がない。」と述べた。
立証<省略>
理由
法定条件未成就の間において成就したと同じ利益は存しない。所有権未取得の間において取得と同一の利益が保護される筋合はない。原告らは、法定条件付権利が害せられたとして生じた損害につき、法定条件が成就すべかりしものと前提して農地所有権そのものの価額を基礎として主張するのである。仮りに原告ら主張の事実があるとしても、いずれも農地の売買であつて知事の許可がないに帰するのであるから、各売買契約は法定条件未成就により無効のままであるところ、各契約につき知事の許可が与えられ法定条件が成就すべかりしものと判断される特別の事情について主張立証がない。それ故、原告らが土地所有権を取得し得べかりしものということができず、法定条件付権利が害せられたとはいえても、よつて生じた損害として原告ら主張のとおり土地所有権の価額相当の損害を基礎として認めることはできない。
よつて、その余の点を判断するまでもなくこの点において原告らの請求は失当であつて棄却の他はないので訴訟の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 立岡安正)
別紙
昭和三九年一一月四日付原告ら準備書面写し
原告 浜中金作 外一名
被告 海老沢清一 外六名
右当事者間の御庁昭和三三年(ワ)第一八六号損害金請求事件について原告は左の通り陳述する。
一、原告浜中金作は実父杉三郎を代理人として昭和二八年一一月一一日頃東京都三鷹市上連雀通南二七八番地所在の被告海老沢清一等の父海老沢国太郎所有に係る宅地(竹林)一二八坪六勺を国太郎が販売を委託していた新宿区百人町二丁目一八〇番地日本土地株式会社から代金七十六万八千百十円(坪六千円の割)で買受け右代金としてその頃金三十八万円を、同年一一月一九日頃金三十万円を夫々右会社に払込んだが所有権の移転登記手続未了の間に会社は柏某に対する債務の支払に窮して原告金作乃至代理人杉三郎に無断で原告金作の所有に帰した右宅地を柏某に対する会社債務の代物弁済として譲渡し同人にその所有権移転登記をしてしまつた。
二、そこで原告金作は昭和二九年一月頃杉三郎を代理人として日本土地株式会社に再三交渉した結果、同社取締役上村実との間に右宅地に隣接した地続きの土地で前記竹林と共に同社が国太郎から一括して販売方の委託を受けていた農地のうち一二八坪六勺を前記竹林(宅地)の代替地として東京都知事の宅地変更許可を条件に原告に譲渡引渡すことのとりきめをなし、尚差損金として五十四万五千円を受領した。
三、原告浜中四郎助も父浜中杉三郎を代理人として昭和二八年一一月一九日頃三鷹市上連雀二七八番地所在の海老沢国太郎所有の農地三九坪三合三勺を前記日本土地株式会社から東京都知事の宅地変更許可を条件に代金十八万九百千円(坪四千六百円)で買受け手付金十万円を右会社に払込んだ。
四、然るところ日本土地株式会社は昭和二九年二月頃社内に不正事件を惹起して倒産し国太郎は同社との前記土地委託販売契約を解約して自ら右土地売買に関する事後処理に当つたが、昭和二九年四月三鷹市上連雀八七六番地桑名新平方において原告金作、同四郎助の代理人浜中杉三郎、原告側立会人吉野秀吉及び海老沢国太郎、国太郎側立会人桑野新平の四名が会談して、日本土地株式会社が原告金作に前記土地を譲渡したこと、同四郎助に前示土地を売渡したことにつき国太郎において右日本土地株式会社の措置を承認の上これを承継することを再確認したのである。
五、右様の事情にある折から国太郎は昭和三二年五月頃本件土地(農地)を含む自己所有の農地につき不正の方法で宅地転用許可の申請をなし同年九月二日都知事の転用許可を得て同三二年九月一一日原告等に条件付で譲渡していた本件土地を含めた三百坪余りを一括して杉浦石太郎に売却し同年九月一一日東京法務局武蔵野出張所受付第一〇二七〇号を以て所有権の移転登記をしてしまつた。
六、原告金作同四郎助が本件土地に対して有する権利は前述の如く都知事の宅地転用許可を条件とする権利である。国太郎はこの原告両名の条件付権利を前記の如く杉浦石太郎に本件土地を売却して侵害したのである。被告等は国太郎が右様債務の不履行によつて原告等に対し負担した損害賠償の責任を昭和三四年五月五日国太郎の死亡によつて相続承継し今日に至つているのである。
然らば原告両名が被告等に対し損害賠償の請求をなすことは当然であつて認容されるものと思料する。